葬儀の準備を自ら行う生前予約・生前整理~「納得できる最期」を迎える為には?~


自分の最期がいつかは分かりません。しかし、生きている内に「最期」の為に準備出来ることがあります。それが「生前整理」と「生前予約」です。最期を迎えるその日を、ポジティブに捉えられれば「生きている今」が、一層充実したものになるかもしれません。

「最期」に対する捉え方の変化

これまでの社会では、人が亡くなるということは縁起が悪く、話題に出すことも不謹慎とされる風潮がありました。人には誰しも「死」が必ず訪れるにも関わらず、その時について考えることを避けてきた節があります。ですので、本人が亡くなってから、初めて葬儀や遺品、亡くなった後の事について考えるというのが、一昔前の常識でした。「自分が生きているうちに自分の葬儀の内容を考える」などと言えば、周りから正気かどうか確認されたかもしれません。

しかし、時代は移り変わり、人々の考え方も変わりました。超高齢化社会を迎え、自らの「最期」に対して真摯に向き合う方が増えてきています。自分自身が亡くなったときのことを自らイメージし、後悔しない終わりを迎えるにはどのような準備すればいいかを考え、人生の終末期を迎える準備をするのです。人生をより良く終わらせるための活動、人生を納得して終えるための活動、これらは、並々ならぬやる気に満ち溢れていた若き日の「就活」になぞらえ、「終活」と呼ばれています。

自分らしい最後のために

終活を始める方々にとって、きっかけとなるモチベーションはなんでしょうか?人それぞれにあるかと思いますが、多くの方が口にするのは「迷惑をかけたくない」という理由です。実際に近親者が亡くなった時に苦労された経験のある方は身に染みてお分かりかと思いますが、人が亡くなるということはとても大変なことなのです。悲しみに暮れている中で、やることが膨大にあります。急な葬儀となると、金銭的に都合をつけないといけませんし、その準備はもちろん、親族・友人知人への連絡、役所への届出を一気に進める必要があります。そして、葬儀が終わって一息つく間もなく、住まいの後片づけ、遺品の整理、預貯金や年金の手続き、相続のこと、お墓のことなどやらなければいけない事や決めなければいけない事が山ほどあるのです。何も準備をしていないところからのスタートだと、遺族は待ったなしのスケジュールをこなし心身ともに疲弊してしまうかもしれません。

これからの日本は、高齢化が急速に進んでいきます。また、未婚率が高くなり、結婚という選択をせず生涯を終える方も増えていくと思います。現代社会においても、一人暮らしの高齢者、いわゆる独居老人は増加の一途を辿っていますが、その傾向は今後ますます強まるでしょう。家族や親族がいてもいなくても、あなた自身が亡くなったときには、誰かが身の回りの物を整理し、葬儀の準備をすることになります。それは、家族や親族、友人かもしれませんし、名前も知らない第三者かもしれません。人が亡くなった後には、誰かの手を借りなければいけないのが現実なのです。

コミュニケーションが希薄になっている世の中、「家族や他人に迷惑をかけたくない」「周りの負担になりたくない」と思うのは自然だと思います。しかし、消極的な理由で終活を進めるのはあまりお勧めしません。暗い気持ちで始める終活は、どうしても手が止まりがちです。遺された人に負担をかけたくない」ではなく、「残された人に自分は何が出来るのか」と発想を変えてみるのはどうでしょうか。これまでの人生も様々な取捨選択の末、今があるはずです。「亡くなる」という、人生の最期も自分自身の事ですから、自分で決めたいと思いませんか?
まずは前向きに、葬儀も、遺品や遺産のことも、自分の意志を反映して「自分らしい、納得できる最期」を迎える準備をしてみましょう。そうすれば、周りに迷惑をかけない、「ありがとう」と言われる最期が付いてくるではないでしょうか。

「生前予約」とは

では、自分らしい最期を迎えるための準備とは、いったい何をすればいいのでしょうか?終活をするといっても、その活動内容は様々です。今回は、多様な終活の中から「生前予約」と「生前整理」についてお話ししたいと思います。

「生前予約」とは、自身の葬儀内容について、生きている間に本人が決めることを指します。最近では、自分の葬儀を自らプロデュースするといった内容のテレビCMが頻繁に流れているので、なんとなくイメージはつきやすいかと思います。この「生前予約」が、注目されているのです。生前予約は、アメリカから始まり欧米ではすでに一般的になっています。

自ら葬儀や葬送の仕方、それらに掛かる費用を決めるためには、まず世の中にどのような葬儀があるのかを知る必要があります。近頃は、終活ニーズの高まりを受け、葬儀の種類も多様に変化しています。現在、日本の葬儀は約8割が、宗教葬だと言われています。しかし、近年は宗教に拘らない形式をとる方が増えているそうです。葬儀も前もって自ら選ぶ時代です。代表的な葬儀の形をいくつかご紹介しましょう。

●一般葬
昔ながらの従来通りの葬儀です。恐らく、一度は参列されたことがある形式だと思います。家族や親族はもちろん、友人・知人、仕事の関係者など、幅広い参列客を呼ぶことになりますので、交友関係の広い方なら参列者が多く集まるため、葬儀の規模が華やかで大きくなる傾向にあります。

●家族葬
基本的には、家族と親族といった身内だけで行う葬儀形式です。故人の希望があればごく親しい友人を呼ぶこともあるでしょう。俗にいう、一般会葬者は参列しないので一般葬に比べると小規模なものになります。その分、故人との距離が近く落ち着いて送り出すことが出来ると思います。

●一日葬
通夜を行わず、告別式のみを行います。葬儀は一般的に、通夜と告別式を2日間に渡って行いますが、告別式のみですので一日で行事を終えることができます。

●直葬(火葬式)
通夜や告別式といった儀式を行わず、亡くなった場所(病院や施設、自宅など)から火葬場に向かう葬儀です。そのため、宗教的な儀式は行いません。家族葬と同様、少人数の身内だけで行います。葬儀の規模が小さいので、費用を安く抑えることができます。

●音楽葬
従来の形式にとらわれない葬儀の新しい形です。無宗教葬・自由葬と呼ばれる葬儀形式で、音楽が中心になる葬儀です。お寺の住職に読経してもらうといったことはありません。故人が生前好きだった曲がBGMとして使われ、希望があればピアノや楽団による生演奏も可能です。音楽による演出をすることで、これまでのお葬式に比べると、明るい雰囲気のお見送りになります。周りの方に、「涙ではなく笑顔で参列してもらいたい」という故人の希望が叶いやすいかもしれません。
しかしながら、音楽葬はまだまだ新しい葬儀形式ですので、お住まいの地域によっては葬儀会社が対応できない場合もあります。事前によく調べておくことが重要です。

●生前葬
一般的にはあまり行われていませんが、芸能人の方などの生前葬が時折話題になることがあります。生前葬は生きている間に自分の葬儀を行うもので、自分自身が出席できるのが、最大の魅力です。自分の言葉でお世話になった方々へ感謝の言葉やお別れの挨拶を伝えられます。葬儀というよりは、社会的な区切りをつけるための会かもしれません。
生前葬も、宗教的な儀式はありません。自ら葬儀を取り仕切り、プロデュース出来ることから、音楽葬よりももっと自由な葬儀になります。
ただ、生前葬を行うタイミングや中身は難しいもので、前例が乏しい為、葬儀の準備に時間と費用が掛かる恐れもあります。

以降は、火葬後の遺骨に関する選択肢をご紹介します。今までであれば、先祖代々続くお墓に納骨するのが当たり前でしたが、常識を覆す新しいスタイルが登場しています。

●自然葬
墓石を立てて埋葬せず、海や山などに散骨して自然の大きな循環の中に還すというものです。世界では一般的に行われているようですが、日本では近年注目が集まっています。山に散骨すると「樹木葬」、海に散骨すると「海洋葬」などの呼び方があります。この場合、お墓の購入資金が要りませんし、その後の管理も必要もありません。
また、希望があれば遺灰の一部を残して手元に置いておく事も可能ですが、基本的には散骨後に遺骨は取り出せませんので、よくご家族と話し合われる必要があるでしょう。

●バルーン葬・ロケット葬
「バルーン葬」「ロケット葬」という言葉をご存じでしょうか?終活全盛期の今、新しい葬儀の象徴のような形式です。バルーン葬とは、直径2〜3mの大きなバルーンに遺灰を入れて空へ飛ばす方法です。バルーンは数時間かけて成層圏(高度約30~35㎞)に到達します。成層圏に入ったバルーンは、内部の圧力が高まり破裂することによって、空に散骨されます。また、遺灰を入れたカプセルをロケットで打ち上げるものを、ロケット葬と言います。

●宇宙葬
さらに上をいくのが宇宙葬です。なかなか耳慣れない言葉ですが、アメリカで始まり、日本でも徐々に注目され始めてきた葬儀です。宇宙葬を初めて行ったのはアメリカの著名人であるジーン・ロッテンベリー氏で、これまで宇宙葬を行った人は100人以上いると言われています。ほとんどがアメリカで執り行われてきましたが、数年前から日本でも利用者の募集が始まり、実際に宇宙葬を行った方もいらっしゃるようです。具体的には、火葬を終えた遺灰をカプセルに入れて人工衛星で宇宙に打ち上げます。宇宙空間を周遊したのち、最終的には大気圏に突入して燃え尽きます。正直、一般人の感覚からは想像しがたい世界ですが、費用は数十万からとなっているようです。亡くなったあとは、星になって見守りたいという方に向いているかもしれません。

●月面葬(月面供養)
宇宙葬を発展させたのが、月面葬です。まだ日本では行われていませんが、遺灰の一部をカプセルに入れ、月着陸船の内部に搭載して月面に送るものです。着陸船がそのまま墓標として月面に残るようです。これまでの供養と比べると割高で、費用も100万以上かかります。宇宙に行きたい、月面に降り立ちたいという夢を亡くなってから実現することができます。

葬儀について調べてみると、他にも「風葬」、「土葬」、「水葬」、「冷凍葬」など、本当に様々な葬儀の形式を見つけることができます。今後も、時代のニーズや人々の死に対する捉え方の変化に伴い、葬儀の種類はますます増えていくでしょう。それぞれの葬儀形式について正しく理解し、ご自身の希望を明確にしておく必要があります。

葬儀の中心にいるのはご本人だと思います。しかし、全て独りよがりに理想を追い求めては、あなたの葬儀を任せる人々が困惑してしまう可能性があります。生前葬でない限り、葬儀の時に自分はもういないのです。あなたが希望する葬儀の形と、なぜそれを希望したのか、家族や仲間、葬儀会社の担当者と共有しておくことを忘れないで下さい。

「生前整理」とは

生前整理は、生きている間に資産・財産や身の回りの持ち物を整理しておくことです。これまでは、故人が亡くなったあとで遺族が持ち物を片づける「遺品整理」が主流でしたが、先述した通り、終活ブームと単身の高齢者が増加している背景も重なり、生前整理を行うことに関心が高まっています。
整理というと「断捨離すればいいのか」と思われるかもしれませんが、生前整理は断捨離よりさらに踏み込んだものと思って下さい。物だけに限らず、資産・財産の整理も含みます。生前整理は、残りの人生を必要なものだけで穏やかに生きるための整理なのです。

生前整理は自分のため

物が多いということは、実は高齢者にとって非常に負担が大きいのです。物が多いと部屋が散らかりやすくなり、頻繁に片づけをしないといけなくなります。しかし、年齢を重ねると体力が衰え、片づけに向かう気力さえ失われがちです。物が散乱した部屋で暮らしていると、気分が滅入ってしまったり、転倒の危険が高まり怪我に繋がったりすることがあります。高齢者が転倒すると、骨折などの大きな怪我になりかねません。

また、部屋に余裕があると様々な変化に対応できます。例えば、杖や車いすを使う生活になったとき、介護が必要になったときです。杖や車いすを使うとなると、部屋のあちこちに動きをサポートする手すりをつけることがよくあります。しかし、いざ設置工事をしようと思っても物が邪魔で作業が進まないということも考えられますし、室内で杖や車いすを使った生活を送るためには、健康なときよりも広いスペースが確実に必要になります。また、在宅介護を受けるようになったとき、介護ベッドを入れるスペースがないと生活が出来ません。居室の整理整頓は、自分自身の身体の為でもあるのです。

高齢者が入院してしまったり施設へ入ったりしたタイミングで、本人の持ち物を家族が整理し始めるということはよくあります。しかし、ご自身の手で残すもの・捨てるものを選ぶのがベストではないでしょうか。亡くなった後に天国から、「あれはこうして欲しかったのに」と後悔しても、その声は届きません。大切にしていた物の価値は、本人でしか分からない事が多々あります。本当に自分にとって必要な物を見極め、整理ができるのは自分だけです。冷静な判断が出来て体力のあるうちに、生前整理を始めましょう。

生前整理のポイント

では、いざ生前整理を始める時には何に気をつければいいのでしょうか。まず、「捨てる・譲る」ということを決断して下さい。高齢者の方は、物に対して「もったいない」という気持ちを強く持つ傾向にあります。数十年も前の物が、ずっと使われないまま仕舞ってあることも珍しくないでしょう。今の時代、物が少ないことは貧しいことではありません。長く人生を歩んでいると、思い出も膨らみます。しかし、残念ながら大切な写真や記念の品々全てを天国にもっていくことは出来ません。ご自身の心の中に残すことを考えましょう。ぜひ、自分のために「捨てる・譲る」ことを選んで頂きたいと思います。

そして、決して無理をしないことを心がけてください。若いときよりも、確実に体力・判断力は落ちていますし、疲労感は決断を鈍らせてしまいます。疲れたら立ち止まり、周りの助けも借りながら進めていきましょう。

終わりに

「自分らしい最期」「納得して亡くなる」というのは言葉にすると簡単ですが、なかなか難しいものです。これまでなら考えられませんでしたが、葬儀も自分で準備・選択する時代になりつつあります。最期の日に向けて、暮らしを少しずつ整えていくことが、後世に残る人々の手本となるかもしれません。そして、あなたが生前決めた様々なことが、遺された家族や友人、周りの人の助けとなり負担を軽減するのです。ぜひ前向きに、葬儀の生前予約や生前整理を行って頂きたいと思います。

 

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