遺品整理は、「処分する」という前提で動くことが多いように感じますが、故人の思い出の品を厳選して残し、大切にしていく、という意味合いの方が大切なのではないでしょうか。ここでは遺品整理の際に、「残すもの」のヒントをお伝えできればと思います。
必ず訪れる遺品整理
大切な方の思い出が詰まった遺品を整理していくのは、なかなか根気のいる作業です。例えばそれがご実家だった場合、ご自身の子供の時に使っていたものが押入れの奥から出てきて、「こんな物まで取っておいてくれたのか…」と、嬉しさと思い出が一気にわいてきてなかなか進められない。また、故人が物を大切にする方だった場合、遺品は膨大な数におよび、仕分けするのにも苦労した。さらには故人の思い入れが強く残ったものほど、またそれを知っているが故に、処分や整理が滞ってしまう。そんな話をよく聞きます。無理に処分すると罪悪感や後味の悪さを感じてしまいますよね。
遺品整理自体、時間が許す限り、「いつまでに終わらせなければいけない」という制約はありません。ご遺族の方のペースで進められていいものです。ゆっくり思い出に浸りながら時間をかけて整理していく。それが叶えば、故人もきっと喜ばれることでしょう。
しかし、現実的に家賃が発生している物件であったり、なかなか頻繁に整理に通えなかったり、という状況である場合、遺品整理の際にはきちんと「残すもの」「処分するもの」のリストを用意することをおすすめします。「本当に残しておきたいものは何か」「故人が大切にしていたものは何か」をご自身に問いかけながら見てみてください。
「残すもの」の基準
それはまさに「故人が大切にしていたかどうか」ではないでしょうか。
故人が大切にしていたものほど、故人との思い出が詰まった遺品はありません。人によって様々なものを大切にしてきたはずです。遺品整理をする際に、故人がどのような日常を送ってきて、どのようなものを大切に使っていたかを振り返り、想像してみるとおのずと「残すもの」が見えてくるはずです。
遺品の保存にはスペースが必要
故人の思い出の品物はできる限り、残しておきたいと思う反面、それを保存しておくにはスペースが必要です。小規模で済むものであればいいのですが、「立派な骨董があるが飾る場所がない」「高価な食器があったが、日常の食器棚には置くスペースもなく、押入れに入れるしかない」「写真が多すぎて残しておけない」など、残しておきたいものと実際の居住環境の差が頭を悩ますことも多いでしょう。
そこで、まずは保管場所から考えましょう。「自分の家のどこに保管できるか。」ご遺族の暮らし方によって残しておきたいものと、保管場所がマッチしているかを考えましょう。
厳選!!「残すもの」とは
【写真・アルバム】
多くの場合、写真は残しておかれる方が多い様です。故人の写真はもう撮ることができません。故人が写っている写真は、もうこれ以上増やすことはできないのです。
写真やアルバムは、比較的大型の家具のように多くの場所をとるものではありません。後で厳選するとしても、一旦保管し、大切に残しておきたいものですね。
【故人の「文字」がわかるもの】
文字は人を映す、といいます。故人はもう字を書くことはできません。大切な方の足跡として、故人が書いた手紙や手帳などは厳選して残しておくことをおすすめします。
【お金に関する書類など】
故人が亡くなった直後で悲しみに暮れている中、「お金の話なんて…」などと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、お金に関して後々トラブルにならないように、遺品整理の前に、下記のものに関してはしっかりと保管するようにしてください。
・現金 ・実印 ・商品券 ・銀行の預金通帳 ・キャッシュカード ・クレジットカード ・遺言書 ・不動産関係の書類 ・生命保険証書 ・マイナンバーカード ・有価証券に関する書類 ・賃貸やリースの契約書 ・借金に関する書類 ・携帯や公共料金の契約書 ・金庫(金庫の鍵) ・仕事関係の書類
仕事関係の書類は5年、自営業者の書類は7年保管します。
貴重品を保管する場所として挙げられるのは、多くはリビングや寝室の引き出しの中や仏壇の引き出しが挙げられます。まれにどこに保管してあるのかがわからず、ご遺族の方が大慌てする事例もあります。なかなか聞きにくいことではあるかもしれませんが、生前に、もしもの時にどこにあるかを確認できればいいですね。
見つからない場合は、遺品整理業者にお願いすることでもできます。遺品整理業者は業務の一環として、まず、そういった貴重品を保管することから始めます。日々の業務の中で、故人が保管しやすい場所などの知識を培っています。良心的な業者を見つけ、お願いするのも一つの方法です。
【貴金属】
指輪やネックレスといったものは、形見分けしたり、リサイクルに出したりしても高額買取が期待できるものですが、故人が大切にしていたものに関して、なかなか「売りに出す」と決断できないこともあるでしょう。けれどもサイズが合わない、デザインが古いなどでタンスの肥やしになってしまうようでしたら、一層のこと、引き継がれるご遺族の方に合わせてリサイズ、リメイクすることをおすすめします。
ご自身に合ったものにすることで、日常も使え、また故人がそばで見守っていてくれるよう気持ちにもなります。
【衣類】
衣類は形見分けとして譲ることが多いものです。普段着として使用していたもの以外のブランド品や質のいいものを残しておきましょう。
例えばブランド物のネクタイや小物、着物や仕立てたスーツなどが挙げられます。ブランド物のネクタイなどの小物は、比較的どんな方でも使いやすいので残して、形見分けの際に残ったものを処分またはリサイクルしましょう。着物などは冠婚葬祭用に残しておいても、今後使い道がありますが、あまり使わないものでしたら、バックなどにリメイクして残しておかれる方もいらっしゃいます。仕立てたスーツは比較的体系の似ている御親族の方に譲るのがいいでしょう。
衣類は、日常で使用していたものはくたびれもあるため、リサイクルしにくいものです。故人が大切に使ってきたものとわかるものを一つや二つ厳選して残しておくことがいいでしょう。
【趣味の品やコレクション】
例えば、切手・コイン・フィギュアなどが挙げられます。故人の最後の趣味として大切にしていたものです。保管できるスペースがあるのでしたら、思い出の品として残しておくのがいいでしょう。このようなものは、一般的に価値がなくとも、故人や特定の関係者にとっては価値のあるもので、遺族の方にはどれが大切なのかはわからないことがあります。また、もしかしたら思いのほか、価値があるものかもしれません。専門家に鑑定してもらい、その価値を確かめておくのもいいでしょう。
形見分けの要注意事項!
形見分けとは、故人の愛用品を近親者や友人などに分けることを言います。故人の愛用していたものを手元に置き、故人を偲ぶため、また故人との思い出を覚えておくために行われます。遺品整理の際、「残すもの」と決めたもののなかから「形見分けをするもの」を分けておくとよいでしょう。
形見分けは特にやるべき時期は決まっていませんが、一般的に葬儀後しばらくしてからの、四十九日法要などの後に行うことが多いようです。神式の場合は五十日際、キリスト教の場合は葬儀から一か月後の追悼ミサの後に行われているようです。
ただ、この形見分けの際に注意したいポイントがあります。
①贈与税のかかるものではないか確認しましょう
贈与税とは一年間にもらった財産の合計が110万円を超える場合に発生します。形見分けであったとしてもこの中に含まれます。もらった方に迷惑がかからないように、高価なものの形見分けの際は注意しましょう。
②遺産分割を済ましてから形見分けを行いましょう
相続人が複数いる場合、この形見分けの品も遺産の一部となり財産に含まれます。遺産は相続人全員の共有物となりますので、遺産分割が済んでいないものを勝手に形見分けしてしまうと、相続人同士でトラブルになる可能性があります。
③包装をしないで渡しましょう
形見分けはプレゼントではありません。相手に贈るのできちんと箱に入れたり、包装したりした方が良いと思われがちですが、贈る際は半紙などの白い紙で包む程度が望ましいです。
④無理に渡すことはやめましょう
形見分けは主に近しい親族や親しい友人で行います。「是非形見分けをもらってほしい」という思いはあるかと思いますが、形見分けは相手からすると断りにくいものです。十分親交のあった方限定で行うことをおすすめします。また、目上の方に形見分けをするのは、失礼にあたると昔から言われてきました。現代はその風潮は薄れ、親しい方であるならば誰でも受け取る傾向がみられますが、一般的とは言えないため、目上の方からは希望があった場合のみ、贈ることにした方が良いでしょう。
最後に
膨大な量を整理しなければならない遺産整理の際に、「残すもの」を決めておくことで、少し心に余裕をもって整理に取り掛かることができるのではないでしょうか。
遺品整理は「何を残して」「何を捨てなくてはいけない」ということではありません。整理すればするほど「要らないけれど捨てきれないもの」が出てくるでしょう。そんな時は無理せず、スペースが許す限りで残しておき、何年後でも心の整理がついたときに改めて整理することがいいでしょう。遺品は故人との思い出に浸りながら、大切にしていきたいですね。