遺品整理すると相続放棄はできない、手遅れにならないための簡単解説

遺品整理すると相続放棄はできない、手遅れにならないために簡単解説

近しい人が亡くなると「すぐに遺品整理をしなければ」と焦ってしまいますが、取り掛かるのは少し待って下さい。遺品整理は最優先事項ではありません。相続か、相続放棄かを決めるのが先なのです。相続のルールを理解して後悔しない遺品整理を行いましょう!

相続するとはどういうこと?

相続するということは、亡くなった故人の財産=遺産を配偶者やその子どもなどの親族が引き継ぐことを言います。

相続の話を進めるにあたり、押さえておきたいのは「遺産」と「遺品」の違いです。言葉が似ているので混同してしまいがちですが、「遺産」は法的な手続きが発生する価値があるもので、「遺品」は家財道具や日用品など市場価値のないものを言います。相続に関わるのは主に「遺産」です。

遺産を引き継げる人は、法律で定められています。誰でもいいという訳ではありません。まず配偶者、その次に子ども、直系尊属(故人の父母・祖父母)、故人の兄姉弟妹と続きます。ただし、遺言状があればこの限りではありません。ここまではなんとなく想像がつくことだと思います。

一言で「遺産」と言っても実は色々あります。相続放棄を考える場合、この故人が遺した財産の中身がとても重要です。

遺産はよく「プラス」と「マイナス」で表現されます。プラスの遺産とは、現金や預貯金、有価証券、不動産、自動車や美術品、骨董品など価値のあるものを指します。一方、マイナスの遺産とは借金や住宅ローン、連帯保証人などの債務を言います。

相続には、全てを相続する「単純承認」、プラスの遺産の範囲でマイナスの遺産を相続する「限定承認」、相続を一切しない「相続放棄」の3種類があります。

単純承認で相続人になった場合は、プラスもマイナスも全て引き受ける事になります。お金があると思っていたのに、蓋を開けてみたら多額の負債を抱えていたと発覚する場合もあるでしょう。しかし、相続の手続きを開始してしまったら後戻りできません。

つまり、どのように相続するのか相続しないのかは慎重に判断しないといけないのです。

相続放棄とは?

遺族が相続を全くしないと決めると「相続放棄」になります。相続放棄とは読んで字のごとく、相続する全ての権利を行使しないことです。

ただし、「全ての権利」ですのでプラスの遺産もマイナスの遺産も引き継がないことになります。現金や預貯金だけもらうといった、良いとこ取りは出来ないのです。加えて、相続放棄をすると決めた場合も後から取り消すことは出来ません。

相続するのか相続放棄をするのかは、その事実を知ってから3ヶ月以内に故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行わなければいけないと決められています。この期間は熟慮期間と呼ばれていますが、万が一、3ヶ月以上経過した場合は相続するとみなされてしまいますので、限られた期間で遺産の中身を把握し、どうするか決めなければいけません。

相続放棄の注意事項

相続するのかしないのかを決めるために、故人の住居を整理してみようと思うのはごく自然だと思います。しかし、相続放棄の可能性がある場合、絶対に遺品整理をしてはいけません。何気なく行った片づけが、後々思わぬ落とし穴になるのです。

先述した通り、相続に関わるのは明らかに資産価値のある「遺産」であり、家財道具や日用品、電化製品などの「遺品」を片づけても何の問題も無いように感じます。しかし、遺品の中に「遺産」が紛れていることがあるのです。

例えば、家の中に現金がしまってあったり、価値がないと思っていた絵画や骨董品に値がついたりといったケースです。何も考えずに急いで遺品整理をしてしまうと、相続の意志があると判断されます。これは民法にも「相続財産の全部または一部を処分した時は、相続放棄が認められない」と定められています。

形見分けも同じです。故人の物を持ち帰ってしまうと相続放棄が出来ない可能性があります。

つまり、勝手に故人の所有物を譲り受けたり、整理して売却してしまったり、粗大ゴミに出してしまった場合は、自動的に「相続する」ことになってしまいます。これを、法定単純承認と言います。そうなると、マイナスの遺産が多くあったとしても相続放棄できなくなるのです。

また相続人が複数いる場合、全員の意志が定まらないうちに片づけ作業をしてしまうと、後々のトラブルに繋がりかねません。

しかし、住人亡きあとの遺品を全く手つかずのまま置いておくのも不便です。特に故人が賃貸物件に住んでいた場合は、管理会社や大家から早期の退去を求められるでしょう。

実は、法律上でも一切手をつけてはいけないと決められているわけではなく「常識の範囲で形見分けするのは構わない」とされています。常識の範囲というのが、なんとも曖昧ではありますが、分かりやすく言えば「明らかなゴミなどは周囲の迷惑にもなるので処分してもいいですよ」という事です。

とは言え、明らかなゴミなのかどうかという判断さえ難しいものです。素人が自己判断で不用意に処分してしまうと、相続放棄のルールに引っかかってくる可能性があります。その場合は、相続放棄に詳しい司法書士や行政書士、遺品整理を専門に行っている業者などに相談するのがベストな選択かもしれません。

相続放棄をしても残るもの

諸々の事をクリアして無事に相続放棄出来たら、あとは何もせず放置していいのかというと、実はそういう訳にもいきません。相続放棄をしたとしても責任を負わなければいけないことがあります。

まずは、連帯保証人です。連帯保証人の責任は相続放棄をしても消滅しませんのでご注意ください。故人が相続人ではない誰かの連帯保証人になっていた場合、相続放棄をすれば相続人が改めて連帯保証人になることからは免れます。しかし、相続人自身が故人の連帯保証人になっていた時は、そのまま継続されるのです。

よくあるのは、故人が賃貸物件に住んでいて、相続人がその保証人になっているケースです。亡くなった後、部屋の損傷が激しければ原状回復の費用を請求されることもあります。この場合、いくら相続放棄をしていたとしても支払いを拒否することは出来ません。

次に、相続財産の管理義務です。相続しないと決めたとしても「自己の物と同様の管理を継続しなければいけない」と民法940条で定められています。具体的な事例を挙げると、故人が住んでいた家が古くなり倒壊して第三者に怪我をさせた場合、管理義務を負っている元々の相続人が損害賠償の義務を背負う可能性があるのです。

管理義務を免れるには、新しく相続人になる「相続財産管理人」の選任を裁判所に申告することも可能です。しかし、この制度を利用するには高額な費用が発生します。

相続放棄 まとめ

相続放棄の注意事項をまとめておくと、以下のようになります。

●相続放棄するかは、相続の事実を知ってから3ヶ月以内に手続きを行うこと。
●相続放棄をしたい場合は、遺品整理や形見分けをしないこと。
●やむを得ず遺品整理する場合は専門家に相談のうえ、明らかなゴミだけを処分すること。
●相続放棄をしても連帯保証人の責務、管理義務は残されること。

相続する機会は人生にそう何度も訪れるものではありません。相続には法律で決められたルールがあります。予備知識なしに相続を受け入れてしまったら最後、遺された物を目の前にして「相続したくなかった」と思っても後の祭りです。いつかきっと役に立つ日がくると思い、相続放棄の注意事項を頭の片隅に留めて頂ければ幸いです。

 

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